- 棚板やフックを取り付ける
- 薄型のテレビを取り付ける
- 家具の転倒防止金具を取り付ける
という事をしたい、というケースはよくあると思います。
この時、よく
「下地のある場所に取り付けて下さい」
と金具やパーツのメーカーから 指示がある事がよくあります。
ではその「下地」って何?と疑問に思った事はないでしょうか。
なんとなく「丈夫な箇所」「壁のうち物がしっかり詰まっている部分」「ネジが利く箇所」だろうなあ、と、そのネーミングと文脈から感じられます。じつはこの「下地」は、一般的な言葉というよりは、れっきとした建築の専門用語なのです。
そしてその下地の正体を知るには、室内の壁の構造を理解するのが正攻法でしょう。
まず「壁」ですが、建物の外側の壁(外壁)と室内の壁(間仕切り壁)では大きく異なっています。建物の外側の壁は構造も材料も多種多様ですが、いずれにしても雨や風に耐えられる様に、かなり頑丈にできています。
室内の壁は、建物の外側の壁とは違ってそれほど多くのバリエーションがある訳ではなく、我が国の現代の住宅では、ある程度似通った構造のものに集約されています。建物の外壁の裏側(室内側)にあたる部分(「ふかし壁」と呼びます)と、部屋を区切るだけの壁(「間仕切り壁」と呼びます)は、一般的に似たような構造です。話をわかりやすくするために、まず一旦は、中身は同じだ思って下さい。さらに、単に部屋を区切るだけでなく、建物を支える働きに加担している壁が室内にある場合もあります(「耐力壁」と呼びます)。この壁は構造的には外壁に近いものですが、外壁と同様にふかし壁がつく場合もあります。
間仕切り壁はどの様な造りになっているかというと、まず、表面にはだいたい壁紙(ほとんどがビニルクロスと呼ばれる樹脂製)が貼ってあります。
それをはがすと、石膏ボードという板が貼ってあります。 厚さ1センチぐらいです。たまに2重に貼ってある場合もあります。石膏ボードは、ボッソボソの材質で、他のものに例えるのが難しいですが、敢えて言うとチョークが大きな板になったみたいなものです。燃えにくく、たわみにくく、伸び縮みしにくい、無機質の建材です。ただ、この石膏ボードは、あまり丈夫なものではありません。曲げようとすれば、あまりしなる事なく、普通の人の力で脆くバキッと割れてしまいます。好きな大きさや形に切る事もできます。それには主にカッターナイフを使います。また、ビスを刺そうとすると、グズグズにくずれて穴が広がってしまい、固定が利きません。
壁から石膏ボードをはがすと、壁の骨組みが出てきます。壁の骨組みは、角材(木材)か、あるいは薄い鉄板を工場で折り曲げて作った四角いパイプ状やコの字の断面の棒(軽量鉄骨、鋼製下地、LGS、軽天材など、様々な呼び名で呼ばれる建材です)で主にできています。この骨組みこそがまさしく下地です。
石膏ボードは、この下地に、ビスで止め付けられています。先ほどビスが効かない建材だと書きましたが、このときも、石膏ボードにはビスのネジは効いていません。ビスのネジは、下地に対してのみ効いており、石膏ボードはビス頭によって下地に押し付けられるようにして固定されています。
この下地は、大体垂直の向きに等間隔で入っています。ただし建物の柱や外壁などの形に合わせて融通を聞かせながら調節してあるので必ず等間隔という訳ではありません。そうではありますが、大部分の箇所では、45.5センチ もしくは30.3センチ間隔で入れられています。また、横方向には、天井の際と床の際以外の場所には入っていない事が多いです。
また、新築やリフォーム工事などで、吊戸棚や配管を取り付ける位置が予め設計されている場合は、それらのものをビスで取り付けられる様に、骨組みである下地に、厚めのベニヤ板をプラスアルファで面状に取り付けておく場合があります。このベニヤ板もまた下地です。
それならば、室内壁は石膏ボードなどで作らず、全部ベニヤで作れば良いではないかという風に思う人も居るかも知れません。なぜそうしないかというと、ネジが効くほどの厚みのあるベニヤ板は、石膏ボードよりもはるかに値段が高いのです。なので、確実に必要だと分かっている場所以外には、むやみには使えません。また、ベニヤ板は年月が経つとアクが染み出して来て壁の表面にシミを作る事があるので、それを防ぐために、対策用の塗装を施したり、石膏ボードを上から重ね張りしたり、などの対策も必要になってきます。さらには、建物の設計や部屋の用途によって、法律上、燃えない石膏ボードを使う必要がある場合もあります。
一方で、石膏ボードのほうにも建材として特有の良さがあるのです。ベニヤよりも値段が安い事に加え、燃えない、寸法や形状にばらつきや狂いがなくきっちり揃っている、反ったり伸び縮みしたりという変形が少ない、時間が経っても変質しにくい、臭いや色を染み出さない、切ったり削ったりの加工がしやすい、など、その良さはたくさんあります。
下地を探す方法は、
- 壁をトントンと軽く叩いて、音の違いで探す
- 細い針を刺す(専用の針が売っています)
- 専用のセンサーで探す
というものが代表的です。
針を刺す方法では、画鋲より少し細いぐらいの針を刺します。壁紙と石膏ボードは簡単に貫通しますが、下地には刺さりません。その感触を頼りに探します。もちろん小さな穴があくので、その事は承知のうえで針を刺す必要があります。
ところで、下地は、通常壁紙と石膏ボードが向こう側にあるわけです。この壁紙+石膏ボードの厚みは、だいたい1センチか1.3センチぐらいあります。少々特殊なケースでは、石膏ボードが二重に貼ってあって、その厚みが2倍ぐらいになっています。ですので壁にビスを刺したい場合には、石膏ボードの厚みを考慮して、下地まで届くビスの長さを考えましょう。
そして通常の下地は木製・薄い鉄板製のいずれであっても、さほど頑丈にできている訳ではありません。重いものの取り付けや、強い力が掛かるビスの取り付けには向きません。
また、壁の中には、電線が入っている場合もあります。壁の内部の空洞内をブラブラしているだけの場合もあれば、動き回らない様に下地にとめてある場合もあります。この電線にビスを差してしまうと、電気の使用に支障が出るばかりか、短絡・漏電・感電などの事故が起きる場合があり、火災につながる場合もありますので十分注意しましょう。電気のスイッチ、コンセントや、壁に埋め込まれた機器の近くでは、特に電線が通っている場合が多いので細心の注意が必要です。
さて、先程、ふかし壁の例外について少しだけ触れましたが、あらためて詳しく説明します。ふかし壁には、GL工法というものがあります。それは、木材や鋼材で骨組みを組む事なく、コンクリートの躯体壁(外壁や耐力壁など)に、GLボンドと呼ばれるセメントの様なノリを点々とダンゴ状にして厚塗りし、そのノリに石膏ボードを貼りつけ、固まるまでの間に押し込む強さを加減して平面を整え、ふかし壁を作るという工法です。この工法ですと必要な工具が少なく、低コストで施工時間も短いです。また、空間的な制約上、ふかし壁を薄くしたい場合にも有効です。こうした利点に注目が集まり、一時期はとても人気がありました。
しかしこの工法には多くの欠点があります。例えば断熱性が得られませんので、石膏ボードの背後で、躯体壁が結露してしまうという場合がよくあります。また、GLボンド自体に含まれていた水分やがて蒸発した後、躯体壁と石膏ボードの間に閉じ込められ、その空間の湿度が高まりカビが発生する事があると言われています。このように色々な問題点が指摘されている工法です。こうした欠点を補うため、躯体壁に断熱材を貼り付けた上にGLボンドで石膏ボードを貼り付けたり、カビの原因となる湿気を追い出す通気ルートを設けるなどの処置を施したり、という工夫も考え出されました。しかし、そのように丁寧に手間をかければかけるほど、今度はGL工法の持ち味であった低コスト性や工期の短さであったり、あるいはふかし壁を薄くできるというメリットが減少して、本末転倒になってしまいます。なので近年はGL工法を安易に導入すること自体が見直されるという動きもあります。また、残念な話ではありますが、建築をするのは真面目な事業者ばかりとは限りません。GL構法の問題点を知りながら、過剰なコスト優先の為にあえて必要な対策を省いてなGL工法で施工している事業者が全く居ないとは言えません。
特に、80年代~90年代あたりをピークとして、使用されていないマンションは珍しいというほどにまで、大流行していた工法です。中古マンションを買ってDIYでリノベーションをする人は、こうした工法の物件に当たる可能性をふまえて、ぜひ知っておくと良いでしょう。
─これらの道具で下地を探してみよう─
まずは叩いて音を聞くというのが基本。ふつうのハンマーに近い形で使い方がわかりやすい。
TRUSCO(トラスコ) テストハンマー 1/4 TTH-02
もうひとつの打診の定番。このようなボール型のハンマーもある。伸縮タイプでコンパクト。
シンワ測定(Shinwa Sokutei) 打診ハンマー A-1 74102
細い針を壁にプスッと刺して、言われなければ分からないぐらいの小さな穴を開けて、針の感触で下地を確認する方法もある。ハンマーやセンサーで調べて、最後にこれで確認をするという使い方がおすすめ。
シンワ測定(Shinwa Sokutei) 下地探し どこ太 Basic 35mm 石膏ボード用の針式の下地探し マグネット付 79025
センサーの反応で下地を探す探知機。最近、通販サイトでのレビューが急激に下がってしまったが、コロナ禍でにわかにDIYを始めたばかりの超初心者が急増した事と関連がある模様。DIYでも手が届く手頃な価格ながら性能が良く、プロの職人さんでも使っている人は普通に居る。
パナソニック乾電池式 壁うらセンサーEZ3802(単3乾電池2本・別売) 内装材専用 木材・プラスチック・金属探知 EZ3802