建物の部屋は、現代の技術を使って造られたものなのだから、寸法はピッタリと、部屋の角は直角に、床や天井は地面に水平に、設計図通りにきっちりとできていて当たり前だろう、と思ってしまいがちではないでしょうか。しかし実際にはそんな事はありません。もちろん、ズレや歪みがいかに小さいものを造るか、というのは建設工事の施工をする職人さんたちの腕の見せ所です。そしてズレや歪みがある程度まで大きくなってしまうとわが国では欠陥工事と通常はみなされ、やり直しや補修を行いますので、そこまで大きなズレや歪みのある建物は、今日ではほぼ無いと言えるでしょう。しかし欠陥工事でない適切な工事であっても、建物の部屋にはいくらかのズレや歪みはどうしても発生してしまうのです。
建設工事には、例えば工場の中で行われるものづくりの様に、できるだけ加工しやすい環境を整えて作業されるものとは異なる部分があります。建物が作られる工事の現場というのは、ほかならぬその場所でなくてはならず、時には窮屈な体勢で、時には不安定な体勢で、現場に持ち込まれた限りの機械や工具を使って行われます。工場ほど整っていない環境で現場加工される工程を経て組み立てられたり取り付けられたりするものも当然あります。そして建材には重いもの、大きいもの、長いもの、硬いものなど、加工しづらい様々なものがあります。
だからといって、建設業の職人さんたちははじめから設計通りに作ろうという気が無い訳ではありません。建物の強度や安全性も意識しつつ、可能な限り設計通りに作る事が基本です。それとは別に、視覚的にきっちりと見えるというのも施工上のポイントのひとつで、工事のノウハウの一種です。これは、広く捉えれば設計通りにできない事をごまかすという事も可能かも知れませんが、決してそればかりではありません。視覚的にきっちりと見える様に仕上がっている事は、見る人に安心感や美観に優れているという感覚を与えます。
つまり、工具や材料に長年の改良が重ねられてきた現代の技術をもってしても、建物の部屋を設計図通りにつくるのは極めて難しく、よもや不可能と言っても良いかも知れません。そのため現代の建物の部屋にも様々なズレや歪みがあります。しかし一方では、職人さんの工夫や技能が随所に盛り込まれ、そういったズレや歪みを感じさせない様に仕上げられているので、建設の現場作業の事情を知らなければ、設計図の通りにきっちりできていると思ってしまうのは無理もありません。
ですので、家具の配置や、棚の造り付けといった目的で部屋の採寸を行う場合は、部屋にはいくらかのズレや歪みがある、といった事を念頭に置いておくのが良いでしょう。